「切迫している?首都圏の地震」

講師 : 東京大学地震研究所教授 佐藤比呂志氏(昭和49年卒)

平成18(2006)年5月13日(土) 「アルカディア市ヶ谷」

 佐藤比呂志東京大学地震研究所教授には、三舩康道君の「災害事例研究会」でもお話頂いた。
 関東の大地震は約200年おきに発生している。今大地震が発生したらその経済損失は250〜400兆円にのぼると言われている。阪神淡路大震災では6千人以上が死亡、1000億ドルの損失が出た。東京はユーラシアプレート、北米プレート、太平洋プレート、フィリピンプレートの沈み込み、せめぎあいが常に起きるこれらプレートの集合境界、いわば「地震の巣」である。地震には関東や三陸で頻発する「海溝型地震」と阪神淡路のような「内陸型地震」がある。前者のほうがマグニチュードが大きく、これまで日本では14万9千人、後者は7万7千人が死亡している。しかし前者の14万9千人中14万2千人は関東大震災での死者なので、これを除けば後者のほうが多いから、マグニチュードが大きいから死者が多いとは一概に言えない。

 マグニチュード8の濃尾地震ではなんと!6mの断層ができた。房総〜東京〜東海は最も地震を起こす確率の高い断層に近い。これはプレート境界の真上であること、もともと海だったところが陸地になったのが東京だから、言わば我々は地震の巣の上に住んでいると言って良い。三陸や西日本では沖合いで地震が発生する。三陸や西日本の海岸線に沿ってその沖合いにプレート境界があるからだ(澤藤注:日本周辺のプレートの状況は日本損害保険協会のホームページに詳しい)。日本での近年の大きな地震を列挙してみると

発生年 M 命名 死者・行方不明者 建物被害
1703年(元禄16年) 8.2 元禄地震 2,300人以上 倒壊家屋8,000棟以上
1707年(宝永4年) 8.4 宝永地震 20,000人 倒壊家屋60,000棟以上
1854年(嘉永7年) 8.4 安政東海地震 2,000〜3,000人 倒壊焼失家屋約30,000棟
1891年(明治24年) 8.0 濃尾地震 2,273人 建物全壊140,000棟、半壊80,000棟、
1923年(大正12年) 7.9 関東大震災 99,331人行方不明43,476人 全壊家屋128,266棟、半壊126,233棟
1944年(昭和19年) 7.9 東南海地震 1,223人 全壊家屋17,599棟、半壊36,520棟、流失家屋3,129棟
1945年(昭和20年) 6.8 三河地震 2,306人 全壊家屋7,221棟、半壊16,555棟、非住居全壊9,187棟
1946年(昭和21年) 8.0 南海地震 1,330人 全壊11,591棟、半壊23,487棟、流失1,451棟、焼失2,598棟
1948年(昭和23年) 7.1 福井地震 3,769人 倒壊36,184棟、半壊11,816棟、焼失3,851棟
1964年(昭和39年) 7.5 新潟地震 26人 全壊1,960棟、船舶・道路の被害多数
1978年(昭和53年) 7.0 伊豆大島近海地震 25人 全壊96棟、半壊616棟、道路損壊1,141ヶ所
1978年(昭和53年) 7.4 宮城県沖地震 28人 全壊1,183棟、半壊5,574棟、道路破損888ヶ所
1983年(昭和58年) 7.7 日本海中部地震 104人 全壊934棟、半壊2,115棟、流失52棟
1993年(平成5年) 7.8 北海道南西沖地震 202人行方不明28人 奥尻島津波
1994年(平成6年) 8.2 北海道東方沖地震 10人 住家全・半壊409棟
1995年(平成7年) 7.3 兵庫県南部地震 6,425人 (阪神淡路大震災)全壊110,457棟
2003年(平成15年) 8.0 十勝沖地震 行方不明2名 全壊116棟、半壊368棟、一部損壊1,580棟
2004年(平成16年) 6.8 新潟県中越地震 51名 全壊3,185棟

 太平洋プレートの上にフィリプンプレートが沈み込み、この間で地震が起きるのと、プレートが歪んでその上で大地震が起きる。関東ではおよそ100年周期で大地震が発生、M8クラスはおよそ200年周期だから、M7クラスは数十年以内に起きると予想されているが、関東大震災クラスは近々には起きないと思われる。より詳細に言えば三浦半島の下に断層があり、JAMSTECの真下が一番すべると予想される。「30年発生確率」で言えば、宮城県沖が99%、南関東が70%である。東海地震が懸念されているが、東海と限るわけではなく、四国から南関東にかけての地帯で大地震が起きる。静岡県が危ないというのは確かに言える。それではいつ起きそうか?これはわからない。地震観測網は日本と台湾が世界の中でダントツの整備状況にあるが、それでも予知は今の技術では難しいとしか言えない。

JAMSTEC:独立行政法人海洋研究開発機構で深海探査などで有名。しんかい6500、うらしま、かいこう7000などニュースによく出てくる。海洋地震の研究は北海道十勝沖と四国の室戸岬沖で行っている。ここでは「横須賀本部」を指し、金沢八景の八景島シーパラダイスに程近い、日産追浜工場の隣である。

 震度だけではなく、周期が大問題である。ガタガタと揺れる短い周期、ゆ〜らゆらと揺れる長い周期、建物の構造によって周期による耐震強弱が異なる。低層の建物は短周期に弱い。ガタガタ→ガシャンと壊れる。高層ビルは短周期の揺れは吸収するが、長周期だと場合によって共鳴していつまでも揺れたり、増幅される場合がある。地表近くに泥が溜まっていたりするといつまでも揺れる。北海道や三陸沖で地震が起きた場合、震源地から遠い関東平野の震度が結構高くしかも長く揺れつづけるのは、関東平野が「すり鉢プリン」のようなものだからである。最も危険なのは江東、墨田といった地帯である。

 さて我々が対策できることは何か?震災対策グッズの準備とか、水の貯め置きとか、いろいろある。高層マンションでは長周期の揺れによりドアが開かなくなったり、エレベータに閉じ込められる、水が来なくてトイレが使えないなどということが起きる。また活断層の真上にある高層の建物は危ない。活断層の分布は公開されているから調べられる。また宅地造成前の土地利用状況も調べて、畑地を選ぶこと、水田はダメ。傾斜地の場合は切り土してより低いところに盛り土するという宅地造成が行われるので、盛り土部分は買わないこと。地震では盛り土部分が崩れる。必ず切り土部分を買うこと。ただしこれも切り土して後ろに崖ある場合、崖崩れが起きるかもしれない、いずれよく調べること。もっとも既に購入済みの人は手遅れかもしれない(苦笑)